法律事務所・士業事務所でよくある光景
- 「準備書面(2)」というファイルが3つあり、どれを提出したのか分からない
- 共有フォルダに スキャン_0138.pdf が何十枚も並んでいる
- 同じ依頼者から3件受任していて、どの案件の書類か開くまで分からない
- 相談段階で預かった資料が、受任後にどこへ行ったか追えない
- 期日の直前に、証拠の原本をスキャンしたPDFが見つからない
書類整理の話は、たいてい経理を前提に語られます。日付と取引先を入れましょう、という定番のルールです。ところが事件記録にこれを当てはめると、まったく足りません。
理由は「一意なキー」と「呼び名」がずれているからです。経理なら取引先名がそのまま検索語になります。ところが事件記録は、正式に一意なのは事件番号(令和8年(ワ)第1234号)なのに、事務所の誰もその番号では会話していません。会話に出るのは「田中さんの件」です。ファイル名を一意なキーで作ると誰も探せず、呼び名で作ると絞りきれない——これが事件記録の根っこにある問題です。
事件記録が引けなくなる4つの理由
① 事件番号は、書類が発生し始めたあとで付く
これが他業種にない特徴です。事件番号が付くのは訴訟提起後。ところが書類はそのずっと前から発生しています。
法律相談で預かった契約書のコピー、受任通知、委任契約書、内容証明、相手方とのやり取り、交渉段階の資料。受任から提訴までのあいだに集まった書類には、事件番号が存在しません。ここで「事件番号で管理しよう」と決めてしまうと、番号が付くまでの書類が宙に浮きます。そして交渉で解決した案件には、最後まで事件番号が付きません。
だから軸にすべきは事件番号ではなく、受任した時点で採番できる事務所内の案件番号です。事件番号は、付いた段階でファイル名に足せばよい情報にすぎません。
② 依頼者名だけでは1件に決まらない
依頼者名で探すなら依頼者名を入れればいい、と考えたくなります。ところが実務ではこれが効きません。
同じ依頼者が複数の案件を抱えているのは珍しくありません。法人であれば売掛金回収が同時に何件も走ります。個人でも、離婚と相続が並行することがあります。「田中さんの件」では、まだ絞れていません。
加えて、依頼者と相手方が同姓である案件がかなりの割合で発生します。相続、離婚、親族間の紛争——名前だけで作ったファイル名では、どちら側の書類か判別できません。
③ 書面には「版」がある
ここが事件記録で最も事故につながるところです。
準備書面は(1)(2)(3)と重なっていきます。さらにそれぞれに起案途中の稿と、実際に提出した稿があります。共同受任していれば、他の弁護士が加筆した版も回ってきます。
「準備書面2」というファイル名は、この3つを区別できません。更新日時で並べても、最終更新が最も新しいものが提出稿とは限りません。提出後に手元で加筆した稿が最新になっていることがあるからです。
区別する方法は単純で、提出日をファイル名に入れることです。提出していない稿には提出日が入らないので、その一点で見分けが付きます。
④ 探す人と、期限が動かないこと
担当している間は、多少ぐちゃぐちゃでも記憶で引けます。困るのは、探す人が担当弁護士本人でないときです。
共同受任の相方、途中から入った弁護士、事務局、期日に同行する事務員。いずれも、その案件の書類がどう保存されているかを知りません。「あとで見れば分かる」は、見る人が本人である間しか成立しない前提です。
そして事件記録には、他業種にない事情があります。期限が動かないことです。期日、提出期限、時効、控訴期間。経理なら「明日でいいか」で済む場面でも、事件記録はその場で出せないと実害になり得る——探す作業の重みが、そもそも違います。
事件記録に向いたファイル名の形
探す軸が「どの案件の」×「何の書面か」×「いつのものか」である以上、案件番号を先頭に、日付を末尾に置くのが基本形になります。
[案件番号]_[依頼者名]_[書面種別]_[日付].pdf
2026-0142_田中太郎_委任契約書_20260410.pdf
2026-0142_田中太郎_訴状_20260522.pdf
2026-0142_田中太郎_準備書面1_20260612.pdf
2026-0142_田中太郎_甲号証1-8_20260612.pdf
案件番号が先頭にあれば、一覧を開いた時点で案件ごとにブロックになって並びます。同じ田中さんの案件が3件あっても番号が違うので混ざりません。依頼者名が併記されているので、番号を覚えていない人でも目で追えます。
冒頭の「田中さんの件の準備書面」も、検索窓に「田中太郎 準備書面」と打てば、提出日順に並びます。いちばん新しい日付が付いているものが、最後に提出した書面です。
事件番号は「足す」情報として扱う
事件番号が付いたら、案件番号のうしろに添えます。書き換えるのではなく、足すのがポイントです。
提訴前(案件番号のみ)
2026-0142_田中太郎_内容証明_20260415.pdf
提訴後(事件番号を追加)
2026-0142_R8ワ1234_田中太郎_準備書面1_20260612.pdf
案件番号が先頭にある限り、事件番号が付く前と後の書類は同じ場所に並び続けます。裁判所や相手方とのやり取りで事件番号を手がかりに探すときは、その番号で検索すれば該当分だけが出てきます。括弧や記号は避けて、R8ワ1234 のように詰めた形にしておくと、検索窓に打つときも共有フォルダで表示されるときも扱いやすくなります。
ファイル名に書かないほうがよいもの
事件記録では、ここが他業種より重要になります。
ファイル名は、フォルダ一覧、メールの添付名、印刷時のヘッダー、外部の共有リンクなど思わぬ場所に表示されます。そのため、相手方の氏名、事件の内容がわかる語、金額をファイル名に入れるのは避けたほうが無難です。「田中太郎_離婚調停_慰謝料300万」のようなファイル名は、内容を開かなくても中身が分かってしまいます。
案件の性質は案件番号のほうに持たせるのが安全です。番号と内容の対応は事務所の管理台帳や案件管理システム側で持ち、ファイル名には「番号・依頼者・書面種別・日付」だけを置く。これだけで、うっかり外に出たときの影響が変わります。
フォルダは案件ごとでよいのか
法律事務所では案件ごとのフォルダを作るのが一般的です。紙の事件記録簿をそのままフォルダにした形で、実務にも合っています。ある案件の経緯を追いたいとき、1つのフォルダを開けば時系列で並ぶからです。
案件ごと+書類の性質ごとの二段構成
案件/2026-0142_田中太郎/
受任・委任契約/
依頼者から預かった資料/
提出書面/
証拠/
ただし、案件ごとフォルダには弱点があります。横断の確認ができないことです。「今月、委任契約書をスキャンし忘れている案件はないか」を見ようとすると、案件の数だけフォルダを開くことになります。
ここで効いてくるのが、フォルダ構成ではなくファイル名側に案件番号と書面種別が入っていることです。ファイル名が統一されていれば、検索窓に「委任契約書」と打つだけで全案件分が番号順に並びます。フォルダで分類しつつ、検索では横断できる——この両立は、ファイル名がそろっているときだけ成立します。
逆に言えば、スキャン_0138.pdf のまま案件フォルダに入れていると、フォルダ構成がどれだけ立派でも横断の確認は永久にできません。フォルダは「しまう場所」であって「探す手段」ではない、というのがここでの結論です。
ルールが決まっても続かない本当の理由
ここまでの内容は、多くの事務所で一度は決められています。それでも スキャン_0138.pdf は残り続けます。
原因ははっきりしています。スキャンが発生するタイミングが、いちばん余裕のない瞬間だからです。
期日から戻って調書を取り込む。相手方から届いた書面を共有する。依頼者が持ってきた資料を預かってその場で複写する。いずれも次の予定が詰まっている合間に起きます。1件30秒のリネームでも、10件あれば5分。この5分は、期日の準備が残っていれば真っ先に後回しになります。そして後回しにした書類は「あとで整理する」フォルダに入り、そこから出てきません。
もうひとつ、事務所特有の事情があります。命名ルールを決める人と、実際にスキャンする人が違うことです。ルールを決めるのは弁護士、手を動かすのは事務局、という分かれ方をしていると、判断に迷う書類が出るたびに手が止まります。「これは準備書面なのか意見書なのか」「日付は作成日か提出日か」——迷った結果、無難な スキャン_0138.pdf のまま保存されます。
続く仕組みにするための条件は、この2つに絞られます。
- 保存する瞬間に名前が付いていること — 「あとで整理する」フォルダを作らせない
- 判断を人に委ねないこと — 迷いどころが残るルールは、迷った人の数だけ形が崩れる
スキャン直後に自動でファイル名を付ける
最近は、AI が PDF の中身を読み取ってファイル名を自動生成する方法が使えるようになりました。複合機のスキャン先フォルダを監視しておき、置かれた瞬間に「2026-0142_田中太郎_準備書面1_20260612.pdf」の形へ変換する、という仕組みです。リネーム作業そのものが発生しません。
事件記録で使う場合、確認しておきたいポイントが3つあります。
- 自社の書類種別を登録できるか — 訴状・答弁書・準備書面・証拠説明書・委任契約書・受任通知は、請求書や領収書しか想定していないツールでは扱えません。書類種別を自分で追加できることが前提です
- どの日付を取るかを指定できるか — 書面には作成日・提出日・受領印の日付が混在します。「準備書面は提出日を使う」といった指定が書類種別ごとにできないと、意図と違う日付が入ります
- 案件ごとにフォルダを振り分けられるか — リネームだけできても、案件フォルダへの仕分けが手作業なら工程は残ります
スキャンリーはこの3点に対応しています。書類種別と命名ルールは自社で自由に登録でき、「準備書面の日付は末尾の提出日を使う」「依頼者名は当事者目録の原告欄から取る」といった指示も書類種別ごとに設定できます。読み取った内容をもとに保存先フォルダを振り分けることもできるため、案件ごとのフォルダへ自動で入れられます。
なお、案件番号のように書類に印字されていない情報は、読み取りでは補えません。事務所で起案する書面に案件番号を入れていない事務所がほとんどですし、相手方から届く書面や依頼者から預かる資料には当然入っていません。この場合は依頼者名と書面種別で命名しておき、案件番号との対応は案件管理台帳側で取るほうが現実的です。書類に印字されている情報だけで引ける形を目指すのが、無理のない設計になります。
また、過去分がすでに大量に溜まっている場合は、まとめて処理してしまうのが早いです。数年分のスキャン済みPDFをフォルダごと投入すれば、順番にファイル名が付いていきます。手作業では現実的でない量でも、あとから遡って整えることはできます。
まとめ
事件記録は「どの案件の」×「何の書面か」×「いつのものか」で探されます。しかも一意なキーである事件番号は、書類が発生し始めたあとで付きます。
この記事のポイント:
- 軸は事件番号ではなく、受任時に採番できる事務所内の案件番号。事件番号は付いた段階で「足す」
- 依頼者名だけでは絞れない。同じ依頼者の複数案件、依頼者と相手方の同姓が普通に起きる
- 準備書面は版が重なる。提出日を入れると、提出稿と起案途中の稿がその一点で見分けられる
- 相手方の氏名・事件の内容・金額はファイル名に入れない。ファイル名は思わぬ場所に表示される
- 案件ごとフォルダは合理的。ただし「どの案件で漏れているか」の確認はファイル名がそろって初めて成立する
- スキャンは常に余裕のない瞬間に発生する。迷いどころが残るルールは必ず崩れる
自社独自の書類を書類種別として登録する具体的な手順は、自社独自の書類にも対応|文書種別と命名規則を自由に設定する方法で解説しています。なお、事件記録の保存期間・保管方法・廃棄の取り扱いは、事務所の規程や所属する弁護士会等の会則・規程、依頼者との取り決めによって異なります。具体的な取り扱いは、事務所の規程や所属会の窓口にご確認ください。