品質管理・商品管理でよくある光景
- 客先から「2023年11月納入分のミルシートを今日中に」と連絡が入る
- ロット番号は分かっているのに、ファイル名が scan_0431.pdf なので総当たりで開くしかない
- 原材料規格書が仕入先ごとのフォルダにあり、改訂版と旧版が同じ場所に並んでいる
- ISO の内部監査前になると、記録を集める作業だけで数日つぶれる
- 担当者が異動したあと、どのフォルダに何があるのか誰も説明できない
請求書や領収書の整理術は世の中にたくさんあります。ところが検査成績書・ミルシート(材質証明書)・原材料規格書・産地証明といった品質関連の書類になると、同じやり方がうまく当てはまりません。
理由は単純で、探され方が違うからです。経理の書類は「月次で、担当者本人が、当月分を」探します。品質の書類は「不定期に、別の人が、何年も前の1件を」探します。この違いを踏まえずに経理式の命名ルールを持ち込むと、いざという時に引けない書類の山ができます。
品質書類が「あとから引けない」3つの理由
① 検索のきっかけが日付ではなく「モノ」
経理の書類を探すきっかけは、たいてい日付か取引先です。ところが品質書類を探すきっかけはロット番号・製造番号・品番・型式です。「11月の書類」ではなく「ロット L231107-02 の書類」を探します。
ここで日付と取引先だけの命名にしていると、該当しそうな期間のファイルを片っ端から開くことになります。検索のきっかけになる情報がファイル名に入っていない——これが最大の原因です。
② 探す人が、保存した人と違う
品質書類が引っ張り出される場面は、客先監査・クレーム対応・回収調査・ISO 審査・行政の立入といったものです。いずれも保存した本人が対応するとは限りません。むしろ担当者が不在・異動・退職したあとに限って必要になります。
「この命名で自分は分かる」は、品質書類においては通用しません。初見の人がフォルダを開いて5秒で構造を理解できるかが基準になります。
③ 保管期間が長く、改訂版が積み重なる
品質書類は保管期間が長く、規格書のように同じ書類の改訂版が何度も発生するものもあります。旧版と最新版が同じフォルダに並んでいると、「どれが現在有効な版か」が分からなくなります。
取り違えが実害につながる点で、これは単なる整理の問題ではありません。旧版の規格書を見て発注や検査をしてしまうと、その先で不適合が起きます。
品質書類に向いたファイル名の形
探すきっかけが「モノ」である以上、ファイル名の先頭に近い位置へ品番やロットを置くのが基本形になります。
[日付]_[品番orロット]_[書類種別]_[取引先].pdf
20231107_L231107-02_検査成績書_◯◯金属.pdf
20231107_L231107-02_ミルシート_◯◯金属.pdf
20240115_A-2200_原材料規格書_△△食品.pdf
日付を先頭に置くのは、フォルダ内でファイルが時系列に並ぶからです。そのうえでロット番号が入っているので、共有フォルダの検索窓に「L231107-02」と打てば関連書類がまとめて出てきます。冒頭の「今日中にミルシートを」は、これだけで数秒で終わります。
ロット番号が書類に印字されていない場合
現実には、仕入先から届く検査成績書に自社のロット番号が入っていないことがあります。この場合、無理に自社ロットを入れようとすると運用が止まります。
おすすめは先方の管理番号をそのまま使うことです。「先方の伝票番号」「先方のロット」「製造番号」——書類に印字されている番号であれば何でも構いません。重要なのはファイル名に何らかの一意な番号が入っていることで、それが自社の番号かどうかは二の次です。自社ロットとの対応は受入記録の側で取れます。
改訂版の扱い
規格書のように改訂が発生する書類は、版数をファイル名に入れ、旧版はフォルダを分けて退避するのが確実です。
規格書/△△食品/
20240115_A-2200_原材料規格書_rev3_△△食品.pdf
_旧版/
20220803_A-2200_原材料規格書_rev2_△△食品.pdf
20210610_A-2200_原材料規格書_rev1_△△食品.pdf
「最新版」というファイル名は使わないでください。次の改訂が来た瞬間に嘘になり、しかも嘘になったことに誰も気づけません。版数か日付という、あとから見て動かない情報で表すのが原則です。フォルダ名の先頭にアンダースコアを付けておくと、旧版フォルダが一覧の上か下にまとまって現れ、現行版と混ざりません。
フォルダは「探す順番」で設計する
品質書類のフォルダ構成でありがちな失敗が、組織図どおりに作ってしまうことです。「品質保証部/受入検査係/2023年度/…」のような構成は、作った人には自然でも、探す人には手がかりになりません。監査対応で来た人は部署名を知らないからです。
基準はひとつで、探すときに最初に分かっている情報を、いちばん上の階層にすることです。品質書類の場合、最初に分かっているのはたいてい「仕入先」か「品番」です。
品質記録/◯◯金属/2023/
20231107_L231107-02_検査成績書_◯◯金属.pdf
20231107_L231107-02_ミルシート_◯◯金属.pdf
階層は深くしすぎないことも大切です。3階層を超えると、初見の人はたどり着けません。細かい分類はフォルダではなくファイル名側に持たせておけば、検索窓で「検査成績書」と打つだけで種別の絞り込みができます。フォルダによる分類と違い、絞り込みと横断検索を両立できるのが利点です。
ルールが決まっても続かない本当の理由
ここまでの話は、多くの品質管理部門で一度は検討されています。それでも scan_0431.pdf が残り続けるのは、リネーム作業に見返りが無いように見えるからです。
経理の書類なら、名前を付けておけば月末の自分が楽になります。ところが品質書類は、丁寧に名前を付けても何も起きません。効果が出るのは3年後にクレームが来たときだけです。日々の業務の中で、いま忙しい人が、いつ来るか分からない日のために1枚ずつファイル名を打ち直す——これが続かないのは、意志の問題ではなく設計の問題です。
そして品質書類は枚数も多い。受入のたびに検査成績書が届き、製造ロットごとに記録が出ます。1枚30秒でも、月に300枚あれば2時間半です。
続く仕組みにするための条件は、結局この2つに絞られます。
- 保存する瞬間に名前が付いていること — 「あとでまとめてリネーム」のフォルダを作らせない
- 人が判断しなくても種別と番号が入ること — 忙しい日に最初に飛ばされる工程を無くす
スキャン直後に自動でファイル名を付ける
最近は、AI が PDF の中身を読み取ってファイル名を自動生成する方法が使えるようになりました。複合機のスキャン先フォルダを監視しておき、スキャンした瞬間に「20231107_L231107-02_検査成績書_◯◯金属.pdf」の形へ変換する、という仕組みです。受入のたびにまとめてスキャンしても、リネーム作業は発生しません。
品質関連の書類で使う場合、確認しておきたいポイントが3つあります。
- 自社の書類種別を登録できるか — 検査成績書・ミルシート・規格書・産地証明は、請求書や領収書しか想定していないツールでは扱えません。書類種別を自分で追加できることが前提になります
- ロット番号や品番を拾えるか — 品質書類の命名は番号が命です。日付と取引先しか取れないツールでは、いちばん必要な情報が抜けます
- 種類ごとに保存先を振り分けられるか — 検査成績書と規格書では保管場所も保管期間も違います。スキャン後に人が仕分けし直すなら、結局その工程が残ります
スキャンリーはこの3点に対応しています。書類種別と命名ルールは自社で自由に登録でき、「ロット番号を必ず入れる」「番号が読み取れない場合は伝票番号を使う」といった指示も書類種別ごとに設定できます。書類の種類ごとに保存先フォルダを振り分けることも可能です。
まとめ
品質関連の書類は、保存した本人ではない誰かが、数年後に、ロット番号を手がかりに探します。経理式の「日付+取引先」だけの命名では、その探し方に応えられません。
この記事のポイント:
- 検索のきっかけはロット番号・品番。ファイル名に番号を入れないと総当たりになる
- 自社ロットが書類に無ければ、先方の管理番号でよい。一意な番号が入っていることが重要
- 「最新版」は使わない。版数か日付で表す。旧版はフォルダを分けて退避する
- フォルダは組織図ではなく「探すときに最初に分かっている情報」で作り、3階層以内に収める
- 効果が出るのが数年後の作業は必ず後回しになる。保存の瞬間に名前が付く設計にする
自社独自の書類を書類種別として登録する具体的な手順は、自社独自の書類にも対応|文書種別と命名規則を自由に設定する方法で解説しています。なお、保管期間や記録の要件については、業種や適用される規格・法令によって異なります。自社の品質マニュアルや所管の窓口にご確認ください。